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【詩】8月の無茶言うなよ

この海岸でひろえる貝殻はこの柄だけです。ってもう決まってる。それはいまが未来だからじゃない。SFだからじゃない。古代からずっと決まってるきっと。この白に茶色がまざった巻き貝。それと小指の爪みたいな桜色のちいさなきらきら。それだけです。それだけだってがっかりした自分はこの海岸のどの貝よりもうつくしくなくて、じゃあ私自身うつくしくなってみせろって、挑発されてもうつくしくならなくて、ただかなしくなっちゃった、砂を飛ばす。女子高生だった頃まねかれた他校の文化祭。左右で違うスリッパ。靴入れ用のビニル袋。あそこから今までで何歩うごいた?この海岸はどれだけきれいだ?あの雨の日といまとの間に距離はあるか?おとなになったか?老いたか?桜色の小指の爪は、いまだにいたいたしげに泣いているか。

すばらしく素晴らしい存在になっちゃえるのならそれでもいい。そうならないなら白に茶色の巻き貝をただ耳に当ててまた紺碧波に投げればいい。誰もあなたを待っていない。誰もあなたを信じていない。だから放り投げていいんだよ。左右違いのスリッパも、濡れて所在ない折り畳み傘も。喧騒の中張り付く前髪。ずっと前に会ってたね。あの時から長いこと時が立ちました。待つより先にやることがある。嫌いと言われるためだけにでも、桜色ははがれてゆきます。少しずつ決然と。どこからきてどこへゆくのか、巻き貝よりももっと知られない彼女らの葬列。